タイムアクシス・デザイン

timeaxis design

 

タイムアクシス・デザインは,デザインの理論・方法論に時間軸を導入したデザインの新たなパラダイムである.従来の最適化理論やシステム工学など,デザインに関わる学術領域においては,時間軸の積極的な導入が行われてきておらず,デザインにおける多くの課題を残してきた.タイムアクシス・デザインは,今後の21世紀のデザインにおける重要なパラダイムの一つになり得るといえる.

 

■ タイムアクシス・デザインの文脈

20世紀までの人工物の大量生産,大量消費型の社会は,利便性をはじめとする物質的な面での豊かさを人々にもたらした一方で,資源エネルギーの枯渇,環境破壊,大規模事故,貧富の差など,数多くの問題も引き起こしてきた.

需要と供給のアンバランスな関係によって生まれるこれらの問題に対し,21世紀の社会においては,人工物の適量生産,適量消費が求められている.

タイムアクシス・デザインは,人工物をより長く使用することによって,過剰な消費と供給の発生を抑制し,両者の適切な関係を実現する一つのパラダイムである.

人工物が長期にわたり使用されるためには,人工物の周辺である場(使用者,使用場所,関連する他の人工物など)の時間軸変動に対応する必要性がある.

タイムアクシス・デザインにおいては,これらの変動に対応するシステムを人工物に組み込むための具体的な方法,方法を体系的に扱ううえでの方法論,方法論の基盤となる理論の構築が肝要となる.

 

■ タイムアクシス・デザインの基盤

タイムアクシス・デザインにおいては,時間軸の状態変化を示す非定常モデル(unsteady model),一旦状態変化を起こすと元に戻らない可塑モデル(plasticity model),階層的なタイムスケールを同時に取り扱うマルチタイムスケールモデル(multi-timescale model)など,さまざまな時間軸のモデルをその理論・方法論の礎としている.

それにより,これまで対応が難しかった,人工物の多様な使用環境や使用者,および人工物自身の時間軸変動への対応を目指している.

 

■ マルチタイムスケールモデル

下図に示すマルチタイムスケールモデは,分,秒単位の事象に関わるショートタイムスケール(short-timescale model),日,時単位の事象に関わるミディアムタイムスケール(medium-timescale model),年,月単位の事象に関わるロングタイムスケール(long-timescale model),および各スケールにおける事象間の因果関係から構成されている.

 

■ バイオインスパイヤード・デザイン

タイムアクシス・デザインの基盤の一つとして,生命システムが持つ柔軟性を人工物に組み込むことで,場の時間軸変動に適切に対応することを目指すバイオインスパイヤード・デザイン(bio-inspired design)が提案されている(下図).

同デザインは,生命システムが生み出す形態や構造を組み込むにとどまらず,生命システムが持つ様々な機能を実現するためのメカニズムを組み込むことが重要視されており,従来の生命模倣デザイン(ミメティクス)とは一線を画している.